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ダイスケ日和
〜ダイスケに捧ぐ〜


◆  ◆  ◆

お別れ

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 2002年9月20日金曜日。その日は朝からとても暑かった。びっくりするほど痩せ細ってしまっていたダイスケが心配になり、実家に帰ろうと思ったが帰らなかった。そのことを今でも悔やむ。

 15時、突然、仕事に行っていると思っていた母親から電話がかかってきた。「ダイスケが死にそう。」受話器の向こうから涙声の母親の声が聞こえてきた。今、何て言った?ダイスケが死にそう?頭の中が真っ白になる。「すぐに帰る。」そう言って電話を切った後、私は冷静に物事を考えることができなかった。「どうしよう。ダイスケが死んじゃう。どうしよう、どうしよう。」その言葉だけを繰り返し、ポロポロ泣きながら部屋の中をぐるぐる歩き回っていた。どうしたらいいのか分からなかった。

 ここから駅まで自転車で15分はかかる。電車だって、繋がりが良くても1時間はかかる。悪ければ2時間くらいかかってしまうかもしれない。駅から家までだって、走って10分はかかる。それまでダイスケは待っててくれるんだろうか。自分が今、こんなにも遠い場所にいることが悔しくてたまらない。

 電車に乗っている間、ずっとドキドキし続けていた。ちゃんと、最後にダイスケに会いたい。早くダイスケに会いたい。ダイスケ、頑張って!こんなにも電車がノロイと思ったことはない。いちいち駅で停まるのが憎らしい。薄暗くなった頃ようやく駅に着き、さらに心臓の鼓動が早まる。ダイスケ、もうすぐ着くから。お願い、待ってて!家に向かって走って行く。間に合わなかったらどうしよう。どうしよう、どうしよう、どうしよう・・・。ダイスケ、お願いだから待ってて!

 家のすぐ目の前まで来た時、ほんの一瞬、お線香のニオイがした気がした。スーっと血の気が引いていく。気のせいだよね?そうだよね?気のせいだと信じたかった。ダイスケに会いたかった。が、真っ赤な目をした母親が庭から出てきたのを見た瞬間、間に合わなかったことが分かった。体中から力が抜けて行く。


 部屋の中でダイスケが横になっていた。まだ暖かく、ただ眠っているようだった。「ダイスケ・・・」と体に触れたら、後から後から涙が溢れてきた。後ろで母親が、「もうすぐねぇね(お姉ちゃん)が帰ってくるから待ってな、って言ったのに、待ってられなかったんだよね。」とダイスケに声を掛けた。ごめんね、最後看取ってあげれなくて。ごめんね、ダイスケ。

 飾ってあったリンドウの花の紫色が、より悲しい気持ちにさせた。今にも目を開けて尻尾を振ってくれそうで、「ダイスケ」と名前を呼びながら、頭や体をずっとさすっていた。だんだん冷たく硬くなっていくのを止めたかった。ダイスケのほっぺたに自分のほっぺたをくっつけたら薄っすら冷たく、涙が止まらない。いつも、鼻にキスすると困った顔をするのに、もう、困った顔をしてくれない。1本だけ、ダイスケのヒゲをハサミで切ってカバンにしまった。ダイスケはヒゲを切られるのがキライだった。引っ張ると困った顔をして、そのうち、「何するんだよ〜。」とでも言う感じでじゃれついてきたのに。今は何の反応もしてくれない。それが悲しくて、また、泣けてきた。

 ラブに、「にぃに(お兄ちゃん)死んじゃったよ。そばにいてあげな。」と言って連れて行くと、顔をそむけ、ダイスケのそばから離れたがった。すごく神妙な顔をして、違う部屋の隅で小さくちょこんと座っていた。ラブにも分かってるのかな。

 その日の午後、病院の先生に往診に来てもらい、そこで初めてガンだと知った。それまでは見つけられないくらいの大きさだったのに、突然大きくなったらしい。誰も気づかないうちにダイスケの体はガンに冒され、9年1ヶ月と2日という人生を終えた。



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