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ランカウイ島旅日記
in
マレーシア

INDEX

12月9日(土)
 朝、少しゆっくりめに起きた私たちは、朝食の前にビーチの方を散歩する事にし、まるでどこかの避暑地の小道でも歩いているような気分で、のんびりとビーチへ向かって歩いて行った。ビーチへはロビーを抜け、DAYANG CAFEの横を通り、プールを抜けて行くと出れる。まず、ロビーですれ違うスタッフたちと「グッモーニーン」と朝の挨拶を交わす。みんなとても人懐っこい笑顔を見せてくれる。とにかくもう、ここは空気が違う。あぁ、何て優雅なモーニング♪思わず変な英語も使ってしまいたくなるってものだ。
 るるるんっ♪なんて気分でDAYANG CAFEの横を抜けプールまで来ると、プールもまた私の「るるるんっ♪」気分を盛り上げてくれる。「あー、もう、プールもいいねぇ♪」なんて3人で喜んでいると、何と昨日の入国審査も1人でできないおじさんがいるではないか。一気に気を悪くした私たちは「いる、いる、いる。」「見てるよ、こっち。」「やばい、やばい、早く、早く。」などと言いながら、間違っても目を合わさないようにしてそそくさとその場を立ち去った。今思えば、何もそこまで毛嫌いする必要はなかった気もするが、その時の、少なくとも私には、せっかくの優雅な気分を、いや、ランカウイ島そのものを台無しにする悪党くらいにしか思えなかったのである。(言い過ぎかな?)
 足早にプールを抜けて行くと、真っ白な砂浜と南国リゾートらしいやしの木とパラソル、そして真っ青な空とこれまた真っ青な海が目の前に広がった。あぁ〜、南国だぁ、リゾートだぁ〜。何て気持ちのいい景色なんだろう。私たち3人は「うわー、うわー。」と歓声をあげながら、砂浜を海へ向かって歩いて行く。波打ち際に一艘の船があり、それに座って写真を撮ったり、私たちが初め泊まろうと思っていた、赤い柱とオレンジ色の屋根を携え海面に突き出る水上コテージを見て、感動とうらやましさからため息をこぼしたりした。そんな風にして朝のビーチの散歩を楽しんだ後、朝食を取るためにDAYANG CAFEへと歩いて行った。
 
左:いかにも南国リゾートらしいパラソル。右:奥に見えるのが、憧れの水上コテージ。
 朝食はDAYANG CAFEでのビュッフェ。私たちは朝食終了時間ギリギリで行ってしまったため、「おかわりをする時間はないけど、いいですか?」と言われる。が、別に最初に食べたい分を取ってしまえばいい事なので問題はない。そして、朝食券は持っていない事を伝え、席に案内された後料理を取りに行くと、DAYANG CAFEのユニフォームに身を包み、朝からきちんと働いているレザールがいた。お互い「あ!」と気付き、「グッモーニン」と笑う。夕べ、DAYANG CAFEのユニフォームは仕事のできるレベルによって違う、とレザールから聞いていた私は、つい、「ちょっと偉くなった。」と言っていたレザールのユニフォームを見て、「本当だ。ショーケンとは違うの着てる。」とチェックしてしまった。奥ではマンさんがワッフルを焼いていたのだが、遅い時間だったのでワッフルはもう無い。すると、私たち用に焼いて、レザールが持ってきてくれると言う。しかも席も、初めに案内された席から、窓際の席(実際は、窓が無いから窓際とは言わないのだろうけど、一番外側の席)に移動しておいてくれたと言う。「嬉しいね。」なんて言いながら席に戻ると、なぜか朝食券が置いてある。「あれ?何で?くれたのかな?え?タダ?」とびっくりしていると、レザールがマンさんお手製のワッフルを持って来てくれた。さらにその後も、フルーツをお皿に盛ってきてくれたりする。本当に至れり尽くせりである。

こんなにかわいいのに、「ギーギー」と、ジャングルの中にいるような鳥の鳴き方をする小鳥。
 お腹がはちきれそうな位食べた後、これからどうしようかと3人で考える。とりあえず、ツアーの特典としてロバに乗る事ができるのでその予約をしに行くと、すでに予約がいっぱいで私たちの希望する日時にはロバに乗る事ができないという事が判明。「昨日の夜、先に予約しとけば良かったね。」と3人で言い合い、今日はタクシーで島内観光をすることに決めた。
 コンシェルジュの所へ行き、ランカウイ島の観光スポットを聞く。眼光がするどく、パっと見、ちょっと悪そうではあるけれど、とても面白いそのコンシェルジュさんは私たちの名前を尋ね、「ユーコ、アヤコ、アイコ・・・オー」と、3人似たような名前に混乱しながら笑っている。そういえば、昨日の夜、レザールも同じように混乱してたっけ。そして、そのコンシェルジュさんからランカウイ島の観光スポットが記載された地図をもらい、ホテルの敷地内で待機しているタクシーに乗り込んだ。さぁ、ランカウイ島観光へ出発だー!
 タクシーに乗り込むと、ここでもまず名前を聞かれる。やっぱり運転手、ボブも「アヤコ、ユーコ、アイコ・・・」と混乱している。それから年齢を聞かれ、私とボブが同い年であることが判明。一瞬「ホント?」と思ったものの、「セイム エイジー!」なんて騒いでみる。それから、行き先を話し合う。と言っても、私は英語が分からないので、正確にはユーコとアヤとボブが話し合い、それを私が傍観し、たまに「どこどこもいいねぇ。」なんて口を挟む。とりあえず、滝と、とても綺麗だというビーチ「タンジュンルー」と、ランカウイ島のシンボルである(LangkawiのLangとはワシの事。)大きなワシの像がある「ワシ広場」、そして最後に買い物や屋台で食事ができるようにランカウイ島の中心地「クア地区」を、うまく回ってもらうことにした。
 まずボブが連れて行ってくれた所は、Telaga Tujuh(Seven Wells Waterfall)、日本名で「7段の滝」という大きな滝である。名前の通り7つの滝があるのだが、滝がある場所までは、かなりキツイ坂を上っていかなければならない。さすが、「海抜100mの高台から流れ落ちる7つの滝」と紹介されているだけのことはある。ボブは、私たちを滝のある場所まで連れて行ってくれるだけでなく、一緒になって車を降り、私たち3人を案内してくれる。ただでさえ暑いのに、急な坂を上って行くので汗が吹き出てくる。急な坂を上り切った所で、左手にある泥道に入る。沢山の木々に囲まれ気持ちがいい。ボブが「Treeは日本語で何て言うの?」(ユーコ訳)と言うので、「き」と言うと、「き?」それだけ?とでも言う風にちょっとびっくりした顔をし、「き、き。」とぶつぶつ言いながら、覚えたての日本語を頭に叩き込んでいるようだった。少し行くと水の音が聞こえ出した。滝はすぐそこだ!

かなり大きな7段の滝。
見えにくいけれど、滝の下にいる2人を見てもらえば、どれ位大きな滝かが分かるかな?
 「うわーすごーい。」思わず声をあげてしまう。両側を木々に囲まれた大きな滝が現れた。見上げる空は真っ青だ。それまでの暑さが一気に吹っ飛ぶ。落差はどれ位だろう?かなり高い位置から、冷く気持ち良さそうな水が、白いしぶきをあげながら滝壷めがけて岩肌を勢いよく滑り落ちてくる。そしてそのまま、いくつもの大きな岩を下り落ち、滝を作りながら、下の方まで滑るように流れて行く。まさに7段の滝。そして、滝壷や岩の合間を流れる川で遊んでいる人たちもいる。「気持ち良さそうだね。短パン持ってくれば良かったー。」と恨めし気に、冷たく新鮮な水で暑さをしのぐ人たちを眺める。ふと上の方でガサガサいうので見上げると、サルが木々を走り回っている。「サルだ、サルだー!」と大喜びの私。
 ボブに先導され、足場の悪い岩場を下りて下流の方へと行く。さりげなく手を貸してくれるボブ。ここまでくると川の流れは緩やかになり、人もいないせいか、全体的にゆったりとした空気が流れている。水は底がはっきり見えるほどに透き通っているし、どこを見てもあふれんばかりの緑。そして見た事のない鳥や真っ青な空。空気もおいしい。まさに至福のひとときである。ボブは話し好きのようで、ユーコとアヤと話し込んでいる。そんな3人を眺めつつ、1人で「うわー、うわー。」と言いながら辺りを観察しまわる私。はっと気付くと、今度はボブが私の所に来て話し始めた。とにかく「英語しゃべってる。」と思うだけで動揺していた私は、ボブがユーコとアヤの英語はとても綺麗で分かりやすい、と言ってるのだけ何とか理解し、「I can’t speak English.」と笑い、さりげな〜く2人に近づいて、そしてまた逃げて行くのだった。

写りたがりのボブと一緒に。
 心地良いその空間でゆっくりとくつろぎ、坂を上ってきた疲れも完全に癒された頃、私たちは重くなった腰を上げた。坂を下りきった所で水を買う。ユーコもアヤも「冷たいと汗かくから。」と、冷やされていない水を買う。私もそうするべきだとは思ったが、あまりの暑さに耐え切れず、冷たく冷やされた水を買う。そして、喉を潤す程度にしか水を飲まない2人に対し、ごくごく飲んでしまう私。「やっぱり私って旅慣れてない・・・。」とは思うものの、無性に喉が渇く。タクシーに乗り込むとき、最初に助手席に座っていたアヤにユーコが「席、代わろうか。」と声を掛けている。私もそう言いたかったが、助手席に座るとボブがやたらと話し掛けてくる。「絶対ムリ!」と思った私は何も言えず、小さくなりながらボブの真後ろに座るのだった。ごめんよ、2人とも・・・。
 次はボブおすすめのシルバー製品などを扱うお土産屋さん、「DE ZONE」へ行く。タクシーがひた走る道には、これという建物はない。あるのはどこまでも続くジャングルと青い空。そして、至る所に牛や水牛がいる。本当に何て穏やかな光景なんだろう。牛を見るたび「カウ?バッファロー?」と、ボブに聞く。ボブは目に入るちょっとしたものを説明しながら車を進めてくれる。途中、整頓されたように並ぶ、白樺に似た木がどこまでも続き、背の高い木々の頭上から木漏れ日が差し込んでいてとても綺麗である。ボブがゴムの木だと教えてくれた。「ゴムの木なんだ!」と驚いていると車を停め、ゴムの木林の中へと導く。よく見ると木の皮がななめに少しづつ切り取られていて、そこから垂れてきたゴムを受けるように、小さなお椀のような物がくくりつけられている。「へぇ。」と感心し、写真を撮って、再びタクシーに乗り込む。タクシーの中はクーラーが効いていて極楽だ。
 
左:ゴムの木林。右:垂れてくるゴムを受けるお椀。中では垂れてきたゴムが固まっていた。
 「DE ZONE」に入るとまず、私の好きな、釣竿を持った木彫りの動物たちが目に入ってきた。「あー!」と、思わず顔がにやける。そんな私をユーコとアヤが笑い、3人それぞれ見たいものへ向かって散って行った。お店のかわいい女の子に、私用と母親用にとシルバーのネックレスを薦められる。確かにかわいいし普通に考えたら安いけど、ランカウイ島の物価から考えたら高く思えてしまい、さんざん迷ったあげく「ごめんね〜。」とシルバーアクセサリー売り場から離れる。結局、最初から目を付けていた、3匹の釣竿を持った木彫りの猫が乗った船と、い草のような物で編んだランチョンマットとコースターのセットを買った。かなりご満足。
 それぞれ欲しい物を手に入れてご機嫌な私たち。タクシーに乗り込むと、ボブがしきりにクロコダイル・アドベンチャー・ランドのショーを見るよう薦める。あまりワニに興味のない私たちだったが、あまりにもボブが薦めるのでとりあえず行く事にする。が、しかし、入園する前にワニショーの時間を確認すると、全然時間が合わない。「どうしようか・・・」と3人で相談していると、「この先に滝があるから、それを見に行って戻ってくればちょうどいい。」とボブが提案。それはいい、とばかりにそそくさとタクシーに乗り込み、滝へ向かった。少し行くと右手に綺麗な海が見え出した。「うわー、海だー。きれーい。」と3人で歓声をあげる。さらに行くとやしの木も見え始め、海がぐっと近づいてきた。ものすごく真っ白な砂浜と、澄んだ海。きれい、きれい、きれーーーい!かなり興奮状態の私たち。さらに目の前の道路には数頭のサルがいるっ!「サルだーーー!」興奮、さらに倍、ってなもんである。
 それから少し行くと左手に、滝への入口があった。よく分からなかったけれど、多分、地図で確認する限り、Temurun Waterfall。ちょっとした山に入って行くような気分で、木々の枝々によって木陰になった緩やかな山道をウキウキしながら歩いて行く。小さな川があり、これまた小さなつり橋がかかっている。さっきのTelaga Tujuhみたいな急な坂はなく、まるでちょっとしたピクニックにでも行くかのようだ。段々川幅が広くなり、流れも急になりだした。1箇所だけ、とても急で道幅の狭い岩場を歩いて行かなければならなかった。が、そこを抜けると泉のような滝壷が現れた。黒い岩肌が立ちはだかり、かなり上からチョロチョロと水が落ちてくる。それは滝というよりは、岩から水が湧き出ているという感じであった。高く立ちはだかった黒い岩の壁のおかげで滝壷は日陰になっており、光が差し込む手前の方は、透明の水がキラキラと輝いている。地元の子供達がジーンズのまま水の中に飛び込んだりして大騒ぎしている。みんな本当に楽しそうだ。ビーチサンダルで来ていたユーコとアヤも、水の中に入って涼んでいる。スニーカーで来ていた私は、スニーカーと靴下を脱ぎ、それからまた足を拭いて靴下とスニーカーを履くのが面倒臭かったので、「いいなー。」と見ていた。元気だったボブは、日陰になった岩場に座り込んでぼーっとしている。何だか疲れてきたようである。

大自然の中の小さなつり橋にて。
 Temurun Waterfallを後にし、行きに見かけたとても綺麗なビーチに行く事になった。はっきりと名前は分からなかったけれど、白骨ビーチとか何とか。名前は怖いけれど、本当に真っ白な砂浜だ。駐車場に車を停める。ボブの真後ろに座っている私は、いつもボブがドアを開けてくれる。その度に最初は「ア、ア・・・」と、私の名前を覚えられずに「ア」をつぶやいていたボブだが、しばらくすると、「ハイ アイコ」と、ドアを開けてくれるようになった。その度に私は困って「ハイ ボブ!」と笑い続けていた。
 
とにかく綺麗なビーチ。嬉しさのあまり、走り出してしまうほど。
 ビーチに向かって歩いて行くと、一瞬ものすごく生ゴミ臭い所があって、「うっ。」と思った。何でこんなに綺麗なのに、こんなに臭いんだ・・・と思ったのも束の間。あまりの夢のような景色に「うわーー!」と3人で走りだす。真っ白な砂浜に真っ青な海。そして、まるでポカリスエットの宣伝に出てきそうなとても雰囲気のいい木が生えている。1組のご夫婦(?)以外に誰もいない。私たちはその、まるでポカリスエットの宣伝に出てきそうな木に座って写真を撮り合った。よく見ると木の枝には、ご夫婦のだんな様の物らしき緑のパンツが干してあったけれど、それもまたいい。(いいかな?)それから波打ち際まで行き、交互に写真を撮って大はしゃぎ。とにかく本当に綺麗。人がいないのがさらにいい。大満足であちこちふらふらしていると、写真を撮られるのが好き(だと思う。)なボブが寄って来て、「フォト。ユー アンド ミー。」と言う。一瞬意味が分からず、「え?え?」と言っていると、あきらめたように首と手を横に振り行ってしまった。そしてやっと、「あ、写真を撮りたかったのか。」と気付いた。ボブは本当に撮られたがりである。

ポカリスエットの宣伝に出てきそうな木の枝に腰掛けて。隣りにあるのが、おじさんのパンツ。


夢のようなビーチ。このご夫婦(?)以外には誰もいなかった。

 夢のようなビーチに大満足して、タクシーに戻ることにした。急に、「あ、サル、まだいるかな。」と思い立ち、「ちょっと見てくる。」と、1人で走って道路に出てみた。すると、いるいるいる。サルの家族が「変な奴が来たぞ。」というような表情で、突然現れた私を警戒している。写真を撮りたかった私は、時々やってくる車とサルの動きに注意しつつ、どんどんサルに近づいて行った。サルに襲われるかも、とびくびくしていた私だったのに、逆に、サルがものすごい形相で逃げて行く。「あ〜・・・。」がっかりである。みんなの所に戻ると「どうだった?」と聞かれたので、「サルが私を見て逃げてったよ〜。」と言ってから「モンキー ランナウェイ」などと訳の分からない事を言って笑っていたら、疲れていたのか呆れていたのか、冷たい笑顔のボブ・・・。
 「クロコダイル・アドベンチャー・ランドはいい。」と言う私たちに、「OK」と力なくつぶやくボブ。どうもボブは疲れているようだし、とても眠そうだ。多分、私たちがショーを見ている間、昼寝でもしたかったのだろう。口数の多かったボブが、何も話さなくなった。時々、車が左や右に寄る。段々私たちも心配になり、「ボブ、大丈夫かなぁ・・・」とつぶやき合う。すると突然、どう考えても他のどの場所よりも綺麗とは言えないような道端に車を停め、「記念撮影でもしたら。」みたいな事を言う。ずいぶん遠くにやしの木々があり、今まさに車を停めた場所は、ゴミが落ちているような草っぱらである。「・・・・・・。」困る私たち。でも、写真を撮らないとボブに悪いような気がして、遠くのやしの木々をバックにユーコに写真を撮ってもらう。それからまたタクシーに乗り込み、一路、タンジュンルーを目指した。
 今にも眠りにおちてしまいそうなボブが、両脇におみやげ屋さん・屋台が立ち並ぶタンジュンルービーチ入口に入り、車で行ける所まで行ってくれる。そしてここでも、ボブより先にドアを開けようとするものの、やっぱりドアを開けてくれる。そして、閉じかかった目で力なく微笑み「ハイ アイコ」。「開けてくれなくていいのにな・・・。」と思いながら「ハイ ボブ!」と笑う。そしてボブは、さすがにもう私たちと回る気はなく、「ここで待ってるから。」と、ゆ〜〜〜っくり回ってきて、とでもいうような顔をして見送ってくれた。「ボブ、ホントにやばかったよね〜。」と言いながら歩き出した。

タンジュンルービーチ入口の屋台とやしの木。
 目の前には真っ白で広ーいビーチが広がっている。そして、「マレーシア版『白砂青松』」と紹介されているだけあって、周りは西洋松で囲まれている。人もほとんどいない。気持ちいー!海の中にはいくつかの小さな島が浮いている。よくよく見ると、ある小さな島へ向かって1本のうねうねとした小道が続いている。人も歩いている。「え?あそこまで歩いて行けるの?」「人、歩いてるよね?」「行こ、行こっ!」と、私たち3人は小躍りしながらその小道へ向かって行った。


小さな島へと続く小さな道。

 近くまで来てみると、潮が満ちてきているのか道が海に浸かっている部分もある。「どうする?大丈夫かな?」「戻って来れなくなってもやだよね?」でも、できることなら行ってみたい。そう思った私たちは、ズボンを膝までまくりあげ、私はスニーカーを脱いで裸足になり、とりあえず行けるところまで行ってみることにした。海の中に現れた小道を歩いて行くのはとても気持ちがいい。目の前には西洋松(?)にこんもりと覆われた3つの島が見え、両側は海に囲まれている。本当に気持ちいい。けれども、行けば行くほど道が海の中に沈んで行く。「やっぱりヤバイね・・・。」私たちはそう言い合って、仕方なく今来た道を引き返すことにした。
 ビーチの近くまで戻ってきた時、ふと足元に目をやると、波打ち際には綺麗な貝殻があり、海水がちょっとだけ流れ込み、砂が濡れて黒っぽくなっている所には沢山のカニがいる。「あー、カニだー!」と、3人でしゃがみこみ、カニに夢中になっていた。そのうち私は貝拾いに夢中になり出した。ユーコとアヤはカニに夢中だ。それからしばらく、それぞれ満足いくまでカニや貝に夢中になっていた。

カニ取りに夢中のユーコ&アヤ。
 ビーチとつながっている高級ホテル「タンジュン・ルー」へトイレを借りに、広く真っ白なビーチをのんびりと歩いて行く。ビーチとホテルのプールが面していて、見るからにとても気持ち良さそうである。そのプールの脇を抜けて行く。何となく、スタッフに見られているような気もする。「何か言われるかな?」「平気だよ。」などと言いながら、プールの脇の噴水のある池で足を洗う。それから、沢山のやしの木や南国の植物が植えられていて、まるで小綺麗なジャングルのようなオープンなロビーへ入って行き、トイレを借りた。「このホテルすごそうだね〜。」と、置かれていたベンチに腰を下ろし、少し休憩をした。それから「そろそろ戻ろうか。」と、私たち3人は腰を上げた。
 外に出て歩いて行くと、突然アヤが「あっ、大トカゲ!」と、前方を指差した。「ホントだーっ!」またまた大興奮の私は慌ててカメラを引っ張り出しシャッターを押す。5,60cmはあったと思う。(が、周りに大きさを比較する物が無かった事、大トカゲがちょうど日陰に入ってしまった事で、できあがった写真から感動を再現することはできなかった。残念。)ちょうどそのとき、生垣の向こう側から、植木の手入れをしていたおじさんが出て来た。すると、アヤにはおじさんがライオンに見えたらしく、「うわぁっ。」と驚いて、ユーコと私は大笑い。おじさんも、自分がライオンに間違えられたなどとは夢にも思わず(多分)、ニコニコと笑っていた。
 タクシーに戻ると、ボブが車の中で寝ていた。さっきよりはましになったようだが、ぼ〜っとした表情は変わらない。次は、ワシ広場へ向かう。ワシ広場はランカウイ島の中心地、クア地区にある。なので、車窓から見える景色が、それまでのもとは変わりだした。色々な看板や、お店、家、車、人。さっきまではほとんど見る事のなかったものばかりだ。ジャングルから町へやってきた!とは言っても、小さな町には変わりなく、ほどよい賑やかさがいい。右手に綺麗なモスクが見えた。多分、アル・ハナ・モスクだろう。海も見える。何だかウキウキする。
 それから少し行った所で、ボブが道端に車を停めた。右手側にある海の方を指し、「ここがワシ広場だよ。ここで待ってるから。」と笑顔で、ドアを開けてくれる。「ハイ アイコ!」少し、ボブは元気になったようだ。そして、私たちはボブに手を振りながら橋を渡り、ワシ広場の中へと入って行った。広場はよく整備されていてとても綺麗だった。
 どんどん海に向かって歩いて行くと、目の前に大きな大きなワシの背中が現れた。「おーきぃーー!!」と思わず声をあげる。ランカウイ島のシンボルである大きなワシは、海へ向かって羽根を広げていた。真っ青な空に向かって今にも飛び出しそうな大きなワシの像は、「お見事」としか言いようがない。とてもよくできている。「すごーい。」ばかりを繰り返してしまう。のんびりと大きなワシの周りを一周し、3人で写真を撮り合った後、疲れ始めた私たちは、広場の入口辺りにあるベンチに腰掛け休憩をした。足元ではスズメがちゅんちゅん跳ねていた。「あれ、スズメ?ランカウイにもスズメがいるんだね。」と、小さな感動。

ランカウイ島のシンボル、大ワシの像。とにかくデカイ!
 少し疲れが抜けた頃、ボブの所へと戻って行った。次は買い物だ。ボブは、ほとんど公園と道を挟んで斜め前にある、サムダラ・デューティー・フリーと併設しているランカウイ・フェア・ショッピング・モールへ連れて行ってくれた。私たちは特に戻る時間は決めず、「じゃ、ここに戻ってくるね。」と、ボブが車を停めた所で別れた。
 中はとても広く、色々な物が売られていた。私たちはそこで、家や友達や会社へのおみやげを買い込もうと、「あそこにいいのがありそうじゃない?」と、適当にフラフラしながら店々を見て歩いた。おみやげ屋さんも楽しいが、スーパーはもっと楽しい。私たちはそこで安い水を買ったり、お菓子を買ったり、売られている色々な物を見て、ほんのちょっぴりマレーシアの生活を垣間見れたような気になって満足した後、タクシーに戻ることにした。
 タクシーへ行くとボブがいない。ちょうど日が沈みかけて、どんどん暗くなり始めた。私たちは遅い時間にたらふく朝食を食べたせいでお昼にはお腹が空かず、お昼ご飯を抜いていた。なので、お腹もかなり空き始めていた。「ボブはどこに行っちゃったんだろう?」「違うタクシーで帰っちゃうよー。あ、でも、荷物が中か。」「この時間も、どんどんタクシー代になっちゃうんだよねぇ。」等とぶーぶー文句を言いながらボブを待ったが、ボブが戻ってくる気配はない。仕方がないので、「時間ももったいないし、ご飯食べに行っちゃおうか。」と、そう遠くないであろう屋台を目指して、相変わらずぶーぶー言いながら、暗くなり始めた道を歩き出した。
 「ホント、どこ行っちゃったんだろう?」「どっかでご飯食べてるかもよ。」「お腹空いた〜。」しかし、歩いても歩いても、なかなか屋台街が見えて来ない。1台、若者数人が乗った悪そうな車が、大騒音と冷やかしの大声をあげながら、ものすごいスピードで私たちの横を走り抜けて行った。「ランカウイにもあーいう人たちがいるんだね・・・。」と、唖然。そして、またタクシーまで戻る事を考えたら嫌になり、屋台街まで歩いて行くことを断念して戻ることにした。
 タクシーへ戻ると、ボブがいた。何だか元気が回復したようで、ニコニコと駆け寄って来る。私たちは「あーーー。」と不機嫌そうな声を出す。ボブはちょっと慌てた感じで、あやと話しをしている。するとアヤが「あ、そうか。」と説明してくれた。ムスリムであるボブはラマダン中のため、太陽が出ている時間は何も食べれず、日が沈んだのでご飯を食べていたのだと言う。私たちは、納得したけど納得できないような気持ちで「それじゃ、しょうがないよね・・・。」「今度は、何時にどこで、ってちゃんと約束しておこう。」と、タクシーに乗り込み、ペコペコのお腹を抱えて屋台街へ向かった。
 屋台街へ着き、ボブと待ち合わせの時間と場所を決め別れた。屋台街と道を挟んだ前では、ナイトマーケットが開かれていた。「後で行けたら行ってみよう。」と言いながら、どこの屋台にしようかと端からメニューをチェックして行く。だいたい同じような物だったので、適当に「ここでいいね。」と決め席に座る。ユーコとアヤはマレーシア風焼きそば、ミーゴレンを、私はマレーシア風ラーメン、ミースプ(?)を頼んだ。そして、アヤがお薦めだというオレンジのフレッシュジュースを頼んだ。フレッシュジュースはオレンジを絞ったそのままの味で、泡もいっぱい立っていた。とてもおいしくて、お腹が空き喉が渇いていた私たちはごくごく飲んでしまう。「ご飯食べるときのためにとっとかなくちゃね。」と言ったのは、半分くらい飲んだ後だった。そしてこれを、後で後悔することになるとは・・・。
 料理が出てきて「おいしそーう!」と、お腹がペコペコの私たちはニコニコだ。いっただっきまーす。うん、おいしー♪・・・ん?・・・辛ぁっ!何がどう辛いのか分からないが、私の頼んだミースプが異常に辛い。口に入れて数秒経つと、口から火が噴けるのではないかという位ヒリヒリしてくる。おいしいのだけど、辛くて辛くてたまらない。ヒーヒー言いながら食べ、そしてジュースを飲む。しかし、半分しか残っていなかったジュースはあっという間になくなってしまった。しばらくは我慢していたものの、アヤの「もう一杯飲む?」と言う言葉に私は目を輝かせ、結局、3人とも頼むことにした。そしてついでに、網の上で焼いていておいしそうだった魚も追加することにした。少しして焼きたての魚が出された。おいしそう♪いっただっきまーす!3人揃って口に入れ、一瞬固まる。「お、おいしいね・・・。」「・・・ちょ、ちょっと臭いね・・・。」「う、うん。何かドブっぽい・・・。」「このタレがいけないのかな・・・。」タレを付けずに食べてみる。「・・・うーん、あんまり変わんないかな・・・はは・・・。」「でも、うん、おいしいよね。」と、つまみ続ける。すると不思議な事に臭みを感じなくなってくる。そして、本当においしいと思い始めた。どこでも生きていけることを確信。

本当に本当に辛かったミースプ。でも、おいしい。
 ご飯を食べ終わり、ボブとの約束の時間も近づいたので会計を済ませる。、ナイトマーケットに行くのはやめにして、ボブとの待ち合わせの場所へ行こうと席を立つと、どこで見ていたのかボブが私たちのすぐ近くに車を停めてくれた。ボブ、名誉挽回、って感じだ。
 ホテルまでの帰り道、ボブはまた、助手席に座っているアヤとよく喋っていた。私は後ろの席で、ユーコと一緒に夜の景色を楽しんでいた。ランカウイ島は夜になると、所々に綺麗なイルミネーションが現れる。道路に沿って、赤・緑・黄色の打ち上げ花火のような、やしの木のようなイルミネーションがあったりする。そんな景色を楽しんでいると、ある一部の区間にだけ、道路をまたぐ綺麗なイルミネーションがあった。「うわー、きれー。何だろう?」とユーコと指差していると、ボブはその道からそれて左の方に入って行き、あるお店の前で車を止めた。アヤが「薬を取ってきたいんだって。」と言う。そしてボブが出て行ったのを見て、ユーコと顔を見合わせ「ちょっと見に行く?」と車を飛び出し、気になる綺麗なイルミネーションを見に走って行った。イルミネーションのせいで、道路全体がライトアップされているように明るい。急いで写真を撮り、そしてまた、急いでタクシーへ走って戻って行った。

何だかよく分からないけれど、綺麗だったイルミネーション。
 ホテルの坂の下に着いた時、ボブが「ホテルの名前が入った看板の所で写真を撮ったら?」と車を停めた。別に撮らなくても良かったのだけど、せっかく停めてくれたので撮ることにする。そしていつのまにかボブが横に立っていて、ツーショットで撮ることになっている。まぁ、いいか。すると突然、ボブが手を繋いできた。写真を撮るときに肩や腰に腕を回す人はよくいるが、手を繋がれたのは初めてで、びっくりして思わず手を離してしまった。その後ユーコもボブと写真を撮り、「手、繋いでこなかった?」と聞くと「うーん」と言う。アヤは「私はいいや。」と写真を撮らなかった。
 再び車に乗る前、ボブが話し掛けてきた。「明日帰るの?」「明日はまだいるの?」「今日の夜は何してるの?」「ルームナンバーは?」「22時頃電話する。」そんなような事を言ってる気もするけれど英語なのでよく分からない。私は「英語しゃべってる!」とパニックしていたし、しかも、何でルームナンバーを聞かれているのかがよく分からない。しかも、何で電話するんだ??何だかさっぱり訳が分からない。ユーコ、アヤ、助けてー!状態である。そんな状況の中、「もしかして部屋まで連れてってくれるのかな?」とか、「もしかしてタクシー代って、チェックアウトする時に払うのかな?」とか、今思えば絶対有り得ないような事まで考え、「言っていいのかな、言わなきゃいけないのかな??」と考えながら結局、ルームナンバーを教えてしまった。ボブはそれを暗記するような感じで軽く頭を2、3回上下に振り、タクシーのドアを開けてくれた。「ホントに言って良かったのかな。」とちょっと不安に思っていると、「ルームナンバー教えたのね。」と、ユーコがボソっと言う。「やっぱダメだった?」と、がーん、がーんとショック気味の私。前の席では、ボブが今度はアヤに何か聞いているようだった。そしてボブは車を発進させた。ロビーへ向かう坂を上り始めたとき、いきなり私が締めたはずのドアが全開になった。動揺していた私は、ドアをきちんと閉めていなっかたらしい。ボブはびっくりして慌てて車を停めるし、私たち3人は大笑いだった。
 ロビー前に着き、いくらだったか忘れてしまったが(多分、1時間20リンギットかそれ位。)お金を払う。そしてボブはやっぱり、「ハイ アイコ!」とドアを開けてくれた。そして「サンキュー。バイバーイ。」と別れた。3人になった後、アヤにボブは何を聞いていたのか聞いてみた。やっぱりアヤにも、いつ帰るのかなどを聞いていたらしい。そして「22時頃電話するって言ってたよ。」と言う。あぁ、私が部屋番号を教えたばっかりに・・・。「ごめーん。」と言う私に、2人は「大丈夫だよ。だって、その頃、多分部屋にいないよ。」と言ってくれる。ごめーん・・・。
 ちょっと疲れていた私たちは、昨日のレザールとの約束をどうしようか、と話した。とりあえず、夜のビーチも散歩してみたかったので、23時まではまだ時間があるし、とりあえず散歩してちょっとだけ顔を出そうということになった。まず、買い込んだおみやげを部屋に置いてこようということになり、ちょうどロビー前に停まっていたシャトルカーに乗り込む。他には誰もいなかったので、私たち3人の貸切だ。少し上がって行ったところで運転手さんが突然聞く。「ノーマル オア ローラーコースター?」「・・・ローラーコースター!」と3人同時に期待を込めた声をあげる。すると「OK!」と言うやいなや、シャトルカー1台がやっと通れる位の曲がりくねった坂道をものすごい勢いで走りだした。しっかりつかまっていないと振り落とされそうだ。「きゃぁぁぁぁぁぁ〜!」と楽しくてたまらないといった悲鳴をあげ、大笑い。そしてそのまま、あっという間に私たちの部屋の前に到着。荷物を置いたらすぐにまた下へ行きたかった私たちは、そのまま待ってもらう事にした。運転手さんがふざけてカウントダウンを始めたので、私たちは笑いながら走って部屋に入り、荷物を置いて飛び出してきた。そしてすぐに、ロビーへと戻って行った。ロビーへ向かう道は下り坂なので、ローラーコースターのアンコールをしたがやってはくれなかった。残念。
 ロビーに着き、少しふらふらしてみる。クリスマスシーズンのため、クリスマスツリーも飾られている。暖かいのにクリスマスツリー、ということにちょっと不思議な気持ちになるが、綺麗なので写真を撮る。そのときたまたま日本人の団体が歩いてきたので、「すいません。写真撮ってもらえますか?」と声を掛けると「OK!」と快く引き受けてくれる。そして、関西人らしきそのおじさん(?)にカメラを渡すと、もっとこっちという風にジェスチャーをしたり、何か、スムーズではない日本語を使う。「?」と思っていると、急に何かに気付いたように「あれ?日本人?」と驚かれた。・・・え、そんな。だって、さっきからペラペラ日本語喋ってるじゃん・・・。いいけどさ、慣れてるし。おじさんは「なーんだ、早くそう言ってよ〜。がはははは。」と豪快に笑っている。そして「あれ?兄弟?似てるね〜。」と、また「がははは〜」と笑った。昨日はショーケンにそう言われた。「私たちって似てるのかね?」とお互いの顔を見合ったけど、よく分からない。

南国のクリスマスツリー。
 それからDAYANG CAFEの横を抜けプールを通り、夜のビーチに出た。右手の方に水上レストランがあり、いい雰囲気だ。そのまま海の方へ歩いて行くと、海の中に浮橋のようなものがあり、その先端の方には何艘かの小船が泊っている。ちょっと暗かったけれど、先端まで行ってみることにした。昼間はとても綺麗な海だけれど、「やっぱり夜の海って気味悪いね。」と言い合う。先端からホテルや水上レストランを眺めた後、ビーチへ戻って行った。
 ビーチをのんびり歩いて行くと、今度はホテルのビーチバーがあった。ほとんど人はいない。「ちょっといいね。何か飲もうか。」と言って、砂の上に置かれたイスに座る。お酒を飲みたい気分ではなかったのでスプライトにした。「は〜、おいしい。」「レザールたち、ホントに来るのかな?」など、たわいもない事を話していると、1人の男の人が寄って来た。「ジャパニーズ?」と聞いた後、1杯ずつおごるから、日本語を教えて欲しいと言う。私たちは「おごり?ほんと?」と、「おごりならお酒飲もうよ。」といたずらっぽく笑い合い、、さっきメニューを見て気になっていたカクテル、「カミカゼ」を頼んだ。
 彼の名はモハン。前はDAYANG CAFEでマネージャーをしていて、今は隣りのホテルのレストランでマネージャーをしているらしい。つまり、レザールやマンさんの元上司というわけだ。モハンは私たちの名前と年齢を聞いた後、自分は30歳だと言い、別に疑ってもいないのに免許証を見せてくれた。しかも、住所を人差し指で隠しながら。「別に住所なんてチェックしないし、パっと見ただけじゃ分からないから隠さなくったて平気だよ。」と思いながら、免許証を覗き込んだ。何だかよく分からなかったけれど、とにかく30歳らしい。
 モハンは最初から何だか悲観的な感じがした。「日本語を覚えたいから日本人の女の子と付き合いたい。でも、女の子たちは私を怖がるんだ。この目がいけないんだ。」(ユーコ&アヤ訳)と、悲しそうな表情を浮かべる。確かにモハンの顔は彫りが深い。だけど、それは理由にならないはずだ。そんな風に、目のせいにしてるからいけないんだ。しかも、日本語を覚えたいから日本人の女の子と付き合いたいなんて、そりゃぁダメだよ、あなた。という感じである。とりあえずモハンは、簡単な挨拶などを日本語で何と言うかを質問し始めた。「グッドモーニングはおはようございます。グッドナイトはおやすみなさい。サンキューはありがとうございます。アイムソーリーはごめんなさい。」そこまで言ってから私はひらめいてしまった。「普通じゃぁねぇ。」と、ニマリと笑い、「グッドモーニングはおっは〜。」と、慎吾ママの「おっは〜」のポーズを教える。モハンは「何かおかしい。」という顔をしながらも真似をする。「そうそうそう。人気者になれるよ。」調子に乗った私は「アイムソーリーは失敬。」と、「失敬、の方が渋くていいよ。」と笑う。ユーコとアヤも笑っている。モハンだけが、「何かが違う。」と、困ったような顔をし、笑えないでいた。
 少しすると今度は「ビーチを散歩しよう。」などと言い出した。「NO!」と笑うと「やっぱりこの目がいけないんだ・・・。」と、がっくりと肩を落とす。ユーコとアヤがそうじゃないって事を説明しても、モハンは全て自分の目のせいだと思い込んで沈んでいる。私は何も言えないので、ただ、「そうじゃなくて」のつもりで「NO.NO.」とだけ言っていた。何だか大変だぞ、この人・・・。すると、レザールやマンさんが通りがかった。モハンをちらりと見て軽く挨拶し、「あっちの方に行ってるから。」と、沢山のお酒やジュースを入れたバケツを持って、さっさと行ってしまった。困り果てた私たちも少ししてから「約束があるから。」と、席を立ちモハンと別れた。「ホントにおごってくれるのかなぁ。」「う〜ん・・・。どうだろうねぇ。」「でもさぁ、日本語覚えたいから日本人と付き合いたいなんておかしいよね。」「間違ってる。」などとぶつぶつ言いながら、レザールたちが歩いて行った方に向かって歩いて行った。
 行けば行くほど何もなく、静けさが漂っている。「ホントにいるのかな?」と言い出した頃、レザールとマンさん、そしてもう1人、男の人がいた。名前はナワさん。3人とも同い年だそうだ。3人は波打ち際に座り込み、お酒を飲んでいた。私たちも砂の上に腰を下ろす。すぐ近くまで波が寄せてくる。時々カニが歩いて行く。電灯なんてどこにもないが、月明かりでとても明るい。昼間より大きく聞こえる波の「ざざーん」という音で、なぜかとても落ち着く。レザールやナワさんがお酒を作ってくれ、6人で「チアーズ!」とコップや缶をぶつけあう。マンさんはすでに酔っ払っていて、昨日のシャイで無口なイメージとはちょっと違った。レザールがふざけて「酔っ払いはヤダね〜。」と、マンさんをからかっている。が、マンさんには日本語は分からない。ナワさんは、日本語も英語もほとんど分からない。でも大丈夫。アヤがいる。アヤがマレー語でナワさんと話しをする。ナワさんは本当に嬉しそうだ。こうして6人、何だかとにかく楽しく、大笑いをしていた。
 お腹がいっぱいで、あまりお酒を飲みたくなかった私のコップのお酒が減らないのを見て、レザールが「減ってないよ。」と言う。「クニャン」と笑うと「バニャ クニャン?」と笑う。「バニャって?」とアヤに聞くと、「すごいとかいっぱい、って感じ。バニャ クニャンで、すごいお腹いっぱい、って感じ。」と教えられ「バニャ クニャン」と笑う。それから少ししてまた、私がこっそりお酒を置いたのがばれ、「あー」とみんなが言う。「バニャ クニャン」とお腹を押さえると一斉に「ティプー」と笑う。アヤも一緒になって言って笑っている。「何、ティプーって?」「うそつき。」とアヤとレザールが笑う。「えー。」と私も笑う。気付けば、ユーコの顔が赤くなっている。何だかとにかく、本当に楽しい。

レザール、マンさん、ナワさんと。
 レザールと話しをしていると、「クリスマスカード送るから住所教えて。」と言う。さっき、ボブの事があったばかりの私は「え。住所はダメ。」と言う。レザールは「何で?」と言うが「うん?ダメだよ〜。」と笑う。何でダメなのかよく分からないけれど、多分、ダメだろう、と思ったのだ。レザ−ルは「じゃ、いいや。」という感じで、その後も何も態度は変わらなかったけれど、何だかとても悪い事をしたような気がした。
 12時を過ぎた頃、「そろそろ戻るね。」とレザール・マンさん・ナワさんの3人に別れを告げ、部屋までゆっくり歩いて戻って行った。ありとあらゆる所で、虫々が競い合うように鳴いている。私たちは順番にお風呂に入ったり、ポストカードを書いたり、明日の準備をしたりした後、虫々の大合唱の中、今日もまたあっという間に眠りに落ちて行った。明日はパヤ島でのシュノーケリングだ!



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