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ホーチミン&アンコールワット旅日記
in
ベトナム&カンボジア


INDEX

6月8日(金)

 朝、ホテルでビュッフェ形式の朝食をとる。本当にこじんまりとしたレストランだが、とても雰囲気がよく、朝の柔らかい日差しが頬に当たって心地良い。今日は、午前中は市内から西へ約5km程行ったところにあるチャイナタウン、チョロンへ行き、午後はホーチミン市内を回る予定である。私たちはビンタイ市場までタクシーで行くかバスで行くか考えながらフロントへ貴重品を預けに下りて行く。するとタンがいて、やっぱり私たちを見て笑い出す。また、私たちもつられて笑い出す。タンは本当によく笑う。そして、私たちはタンにビンタイ市場まではどの位かかるのか、何で行くのがいいか聞いてみた。タンはタクシーを薦める。まぁ、思った通りだ。そして、ホテル前で待機しているタクシーのドアを開けさせ、乗るように私たちを促す。同じくホテル前で待機しているバイクタクシーのお兄さんが満面の笑みを浮かべてバイクを薦める。昨日の夜、「明日乗ってね。」と言っていた人だ。もう「ともだちぃ〜。」と呼んで手を振っている。私たちは笑って謝りながらタクシーに乗り込む。そして、タクシーはチョロンへ向かって走り出した。
 ビンタイ市場までの道中、沢山のベトナムっぽいものを見て興奮した。オープンカーに乗っている新郎新婦、2人の間に犬を挟んでバイクに2人乗りしている人たち、バイクのハンドルの周りにこぼれ落ちそうな程の沢山のニワトリをくくりるけてる人、警察につかまってばつ悪そうに道端に立ってる人、かなり華やかな霊柩車・・・。何もかもが珍しくて、何かを発見する度にノートにメモを取ったり運転手に聞いてみる。
 20分位してビンタイ市場へ到着。さぁ、ビンタイ市場だ!私たちはせっかく市場側で降ろしてもらったにもかかわらず、写真を撮るために市場の前の道を渡る事にした。テレビや本でしか見た事のなかった激しいバイクと車の流れの中を、チイと手を取り合い、向かってくるおびただしい数々のバイクや車を確かめながら道を渡って行く。・・・楽しい!みんなうまくよけて行ってくれるし、このスリルがたまらない。そしてビンタイ市場をバックに写真を撮り、今度こそ市場の中へと入って行った。
 
鮮やかな黄色がきれいなビンタイ市場入口。
 市場の中は、時間がずれてしまっていたのか思ったよりも活気がなく、古めかしい感じだった。売っている物も観光客用のものではなく、本当に生活に必要な物。なぜだかは分からないけど、懐かしいような落ち着く感じがした。みんなあまり英語は分からないようである。市場の中は衣料品なら衣料品、お菓子ならお菓子という風に区切られていて、どこのお店も専門の物を所狭しと積み上げたり、並べたりしてあった。一通り見た後、食堂らしきところで「チェー」を飲む。好きなトッピングを選んで入れてもらったけれど、はっきり言って、何が何だか分からなかった。飲んでいるような食べているような食感で、あとをひくおいしさだった。体が休まったところで市場を出た。
 
左:クッキー屋のおばちゃん。カメラを向けるとニッコリ笑顔。
右:こんな風にお菓子が売られてました。
 たちは市場の前に立ち、往来の激しい道を渡る前に、次の目的地であるティエンハウ廟の位置を確かめていた。すると1人の男の人がやってきて、「どこに行きたいの?」と聞いてくる。「ここに行きたい。」と地図を見せると、「あっちだよ。」と指をさす。私たちは「サンキュー」と言って道を渡るタイミングをはかっていると、突然、その人は私たちの手をとって道を渡らせてくれたのである。その人は真剣な顔をしながら左右を確かめ、私たちの手を引いて行く。道を渡りながら私は「ドクみたい。」とちょっと笑ってしまった。

ビンタイ市場から出てきて右側の風景。
 彼の名前はタウヴェイ ミン。私たちより2、3個上らしい。ほんの少しだけ日本語が話せ、分からなくなってくると英語をペラペラ話し出す。・・・そんなにペラペラ話されても分からないよ〜、と思いつつ、どこまでも道案内してくれるミンをちょっと怪しく思っていた。だけど、ミンはいつも車やバイクから私たちを守るように歩き、カバンやカメラをしっかり持つように何度も何度も気にかけてくれる。ただ、写真を撮ってくれると言ってカメラを渡すとなかなか返してくれない。どうも写真を撮るのが好きなようで、私たちのカメラで勝手に写真を撮りまくるのだ。でも、まぁ、それはいいとしよう。それよりも、ティエンハウ廟まですぐだと言うわりにはなかなか着かないし、ミンは色々な道に入って行く。私はちょっと不安にも思ったが、チョロンの古めかしい建物や路地が見れてわくわくもしていた。さらに近道だと言って、色んな種類の果物、野菜、肉、魚が売られている市場に入って行った。まさに地元の人で賑わう市場だった。私たちだけでは入っていけないような所だった。ミンは私たちに色々な指示を出しながら写真を撮ってくれる。まるでカメラマンとモデルである。おかしい。

手を取って道を渡らせてくれたミン。
 だいぶ歩いたのにティエンハウ廟に着かず不信感を募らせ始めた頃、やっと、ティエンハウ廟に着いた。お寺に入る前、ミンに薦められ花火のようなお線香を一束購入。中に入るとミンがお参りの仕方を教えてくれる。お線香を3本持ち、顔の前で上下に3回振ってから供えるのだそうだ。気付くとミンは、他の観光客にも教えている。世話好きなのだろうか?本当にいい人なのか悪い人なのか分からない。ティエンハウ廟は天井から大きな渦巻きのお線香がいくつもぶら下がっていた。これは1ヶ月間位、燃え続けるそうだ。

火が落ちてくるんじゃないかと気になった渦巻きお線香。
 外に出て、私たちはホーチミン市内に戻る事にし、ミンにそう告げる。ミンが写真を送ってほしいと言うので住所を書いてくれるようノートを差し出すと、私たちを誘導するようにカフェの中へと入って行った。暑かったけれど、ベトナムコーヒーを頼んだ。あの独特のフィルターとコンデンスミルクたっぷりで飲むというベトナムコーヒーに興味津々だったからだ。だけどすぐに、私たちは後悔した。私たちはとにかく早くホーチミン市内へと行きたかった。回りたい所が沢山あり、時間がかなりきつかったのである。それに加え、それまでの快晴が嘘のように、空がどんどんグレーに染まり初めていた。今にもスコールがやってきそうである。スコールがくる前にタクシーに乗りたい。だけど、フィルターがつまってなかなかコーヒーが落ちてこないのである。やっと落ちたと思ったら、お店の人がお湯を足しにやってきた。一体いつになったら飲めるのだろう?チイと顔を見合わせ笑い合う。と、そのとき私の目は、ミンの額から湧き水のようにじわじわ溢れ出てくる血に釘付けになってしまった。原因は分からないけれど、突然血が出てきたのである。私たちは驚いて、ちり紙や鏡を出す。ミンはかなりあせっている。だけど、いけないとは思いつつ、笑いが止まらなかった。

ポーズを取るミン。
 ミンがタクシーを捕まえてくれる。私たちが後ろの席に乗り込むやいなや、助手席にミンが乗り込む。私とチイはびっくりしてミンに言う。「私たちはもう、ここへ戻って来ないよ。」だけど、私たちのつたない英語ではうまく伝わらない。とりあえずミンはタクシーを道路脇へ停めさせ、私たちと話しをする。私たちが一生懸命、もう、チョロンへは戻って来ない事、ホテルはホーチミン市内にある事などを伝えると、ようやく理解したようでタクシーを降りる事になった。「あぁ、良かった。」と思ったのも束の間。今度はお金を要求してきた。「やっぱりか。」と、半分分かっていたもののがっかりする。ミンの言い分はこうだ。自分はホンダ(バイクのことを向こうではホンダと言うらしい。)をビンタイ市場の前に停めてあって、ここからそこまで歩くには遠すぎる。だけど、自分はお金を持ってないからタクシー代を頂戴、だ。「遠いって、だって今一緒に歩いて来たじゃん。」と思ったものの、確かにずいぶん歩いた。ミンの要求額は50,000ドン、日本円にして500円に満たない位だ。チイと「どうする?」と顔を見合わせる。そして、私たちはあーだこーだと言い合ってる程の時間がない事と、確かに色々回ってくれたという事で50,000ドンを渡した。するとミンは本当に嬉しそうにお礼を言い、そしてまた、真剣な顔で私たちにカバンはしっかり持つよう注意し、運転手にくれぐれも頼んだ、という風にベトナム語で何かを話した後、車は発進した。ミンよ、さらば。
 歴史博物館へ向けタクシーが走り出すと同時に、私たちはメーターの数字の上がり具合や、運転手の手元に目を光らせていた。すると突然、メーターの数字が跳ね上がった。私たちはびっくりして「今いくら?」と聞く。多分、私たちの英語も変だったと思うし、運転手も英語があまり話せないようだった。運転手は「フィフティーサウザンド」と一言。「えーーーー!」そんなわけないじゃん、とばかりに2人で大声をあげる。すると、運転手はちょっと困ったように薄笑いを浮かべ「フォーティーサウザンド」と言い直した。でも、それだっておかしい。私たちは「ノー、ノー、ストップ」と車を停めさせる。運転手はさらに困った顔をして薄笑いを浮かべ「ストップ?」と言う。「イエース!」。そして、道路脇へ車を寄せる。でも、何か変だ。・・・あれ?よくよく話してみるとフォーティーサウザンドとは歴史博物館までの値段だった。「あはははは。」3人で笑い合って再出発。
 50,000ドンだって、朝、ホテルからビンタイ市場まで行ったときよりも安い。それなのに私たちが分からず「えーーーー!」なんて叫んだばかりに40,000ドンになってしまった。ホテルからビンタイ市場までよりも、もっと長い距離を乗るのに・・・。しかも、途中で大きなガジュマロの木を見つけ、写真を撮りたいので停まってくれるよう頼むと、行きやすい場所までぐるっと回ってくれた。撮り終わって走って戻ると「そんなに急がなくていい。」という風に笑っている。私たちも笑いながらタクシーに乗りこむ。そして笑顔のまま、ふと自分の足を見ると、何でーー!!!いつのまにかう○ちを踏んでしまっていた・・・。チイがウケている。私もおかしくて仕方ないものの、人の良さそうな運転手さんに申し訳ない気持ちと踏んでしまったショックで笑顔も凍る・・・。歴史博物館に着き、40,000ドンを渡して車を降りる。カメラを向けるとステキな笑顔。「ばいばーい。」と手を振って歩き出すとクラクションの音。振り向くとチイの帽子を持った手を振っている。忘れていたのだ。いい運転手さんだったなぁ。そしてまず、私は水たまりで足を洗ったのだった・・・。

ステキな笑顔の運転手さん。
 歴史博物館にはお昼過ぎに着いた。朝ご飯をだいぶしっかり食べていた私たちはお昼を取ることは考えず、まっすぐチケット売り場へ向かった。すると、今の時間は開いてないという。どうやら13:30にならないと開かないらしい。「どうしようかぁ。」と言いながら歩いているとシクロのおじさんに呼び止められる。でも、私たちはシクロに乗る気はさらさらなかった。ガイドブック等で、いかに怖い乗り物かがせつせつと書かれていたからだ。わざわざトラブルに巻き込まれることをする必要はない。だけど、かなりしつこく笑顔で値段を言ってくる。一見優しそうだが、横から私たちを横取りしようとした人にものすごい剣幕で怒鳴っている。怖い・・・。最初に言われた値段がいくらだったか忘れてしまったけれど、チイは「2人で1時間1ドル」を譲らない。頼もしい。私は、絶対それでOKするわけないと思っていたのだが、最後にはちいの粘りに根負けして笑顔でOKしてくれた。それは予想外の出来事で、「乗らない」と決めていた私たちだったが、しつこい程、「本当に2人で1時間1ドルでいいのか」を確認した後、シクロで市内観光することに決めた。1人乗り用のシクロに強引に2人で重なり合うように乗る。おじさんの名前はラン ヴァン ナン。笑顔がステキだ。「重い?」と聞くと、「大丈夫だよ。」と笑顔で顔を横に振る。シクロは思った以上に気持ちがいい。バイクと車の波と一体化して進んでいく。時々、バイクや車とぶつかりそうになって楽しい悲鳴をあげ、大声で笑う。乗らないつもりでいたけれど、シクロから見るホーチミンもいいものである。
 まず、サイゴン大教会(聖母マリア教会)へ行く。曇り空なのが残念だったが、赤レンガ作りの教会は本当にきれいだ。真っ青の空を背景に見たらもっときれいだっただろう。そして、できることなら日曜日のミサの時間に行ってみたかった。きっと、感動的な光景だろうと思う。外から写真を撮ったあと、教会のとなりにある中央郵便局へ行く。これは19世紀末のフランス統治時代に建てられたものだそうで、フランス風の建物がとてもきれいだ。とりあえず中へ入ってみる。中はとても広く、沢山の人で賑わっていた。私たちはここで数種類のポストカードセットを購入。それから外に出て、私たちを待つナンの所へ行き、シクロとナンと一緒に教会をバックに記念撮影。
 
左:サイゴン大教会  右:中央郵便局
 次に、ホーチミン市最大の市場、ベンタイン市場へ。雲行きが怪しいとは思っていたが、市場へ着くやいなや、激しいスコールが始まった。私たちは市場の中へと駆け込んだ。市場の中は物がごった返していて本当に賑やかだ。だけど、ぶらぶら回ってみるものの、あまり興味を惹かれない。私たちはトイレに行きたくなり、市場の人に場所を尋ねると、外に出て左に行くように言われた。私たちが外に出て左に行こうとすると、私たちよりちょっと若いくらいの女の子に「どこに行くの?」と日本語で話し掛けられた。トイレに行くことを告げると、「こっちだよ。」と反対方向を指す。「え、でも・・・。」と、とまどう私たちにお構いなく、「こっち、こっち。」と進んでいくので付いて行く。あるコーヒー屋の前を通ったとき、「ここ、私のお店。後で寄ってくれる?見るだけでいいから。約束だよ。」と懇願するような目で言う。「うん、いいよ。」と言わざるを得ない。

ベンタイン市場入口。
 トイレに入るのに1,000ドン必要だった。でも、ちゃんと個室でドアも付いているし手洗い場もある。ある本に、「ベトナムのトイレは囲いもドアもないし、みんな適当にその辺でしている」なんて書いてあったのでちょっと心配していたけれど問題ない。良かった、と思っていたら、コーヒー屋の女の子、レイ ヴィッ ハオが突然、壁際にある細長い排水口のような所にしゃがみ込み、用を足し始めたのである。そしてすかさず、水の入ったバケツを持っていたおばさんが後ろから水を流し始めた。ハオは、ぎょっとしている私の方に振り返り、「ベトナム人はここで平気。」と笑う。目のやり場に困った私は「はははは・・・・。」と笑いながらそそくさと個室に入って行った。少ししてチイがアイちゃん、いるぅ〜?」と外で呼んでいるので「いるよ〜。」と返事をする。トイレの壁に遮られた私たちは、そうやってお互いの存在を確認しあった。ここではぐれてしまったらかなり心細い。ただ前もって、もしはぐれてしまったらとりあえずホテルに戻る約束はしてあった。トイレを出てから約束通りハオのお店に行き、結局コーヒーを購入。本当にいい香りのするツヤのいい豆を、目の前で粉にしてくれた。そして、100gにつき1個、あの独特のフィルターを付けてくれた。また、ハオはベトナム語で数字の読み方を教えてくれたのだが、聞いたそばから分からなくなり、楽しそうに笑っていた。

左から2番目が、コーヒー屋の女の子、ハオ。
 雨もだいぶ小降りになり、私たちはハオに別れを告げ、ナンを探す。どこで見ていたのか、雨の中ナンが走ってくる。いつのまにかシクロは水色のビニールシートに覆われ、雨仕様になっている。私たちは「すごーい。」と笑い、また、狭いシートに重なり合うように乗り込んだ。次は統一会堂に行く。着いた途端、再び激しいスコールが始まり、私たちは統一会堂の中へ駆け込んだ。統一会堂は南ベトナム政権時代、独立宮殿と呼ばれた旧大統領官邸で、沢山の豪華な部屋があった。だけど、ここでもベンタイン市場同様、私たちの興味は惹かれなかった。私たちは次へ急ぐため、なぜか小走りで一通り見て外へ出た。スコールは激しいままだ。でも、早く次の目的地、歴史博物館へ行きたい。ナンは「こんな雨の中行くの?」という感じで驚いた表情を見せる。それでも私たちは笑顔で「イエス!」と言う。ナンはあきらめたように笑って出発してくれた。

ベトナム国旗がたなびく統一会堂。
 歴史博物館に着き、「ここからはもういい。」と伝える。ちょうど2時間が経っていた。1時間1ドルの約束だから2ドルのはずだ。だけど、ナンはちょっと目をそらしながら「4ドル」と言う。一瞬チイと目を見合わせる。ナンは雨でびしょびしょに濡れている。私たちがムリを言って雨の中走ってもらったせいだ。私とチイは何も言わずに4ドルを渡した。そして、あまり英語が分からないナンに、私たちのつたない英語で「雨の中走ってくれてありがとう。こんなに濡れちゃってごめんね。」と伝える。ナンは一瞬考えたあと、本当にステキな笑顔で顔と手を横に振り、それから私たちはナンと握手をし、気持ちよく別れた。
 私たちは、歴史博物館で水上人形劇を見たいと思っていた。だからまず、上演時間を調べに行ったのだが、タイミングよく始まるものはなかった。次の回まで1時間位ある。ここで1時間とってしまうのはキツイ。確か戦争証跡博物館でも見れるはずだ。私たちはまた、少し急ぎ気味に歴史博物館を見て回る。先史時代から現代までのベトナムの歴史を見ることができて面白い。ミイラもいるし、黄色の建物自体、趣きがあってとてもいい。だけど、ゆっくりはできない。できることならこの後、戦争証跡博物館と革命博物館に行きたい。さらにできることなら、ホーチミン記念館にも行きたい。どこも17:00には閉まってしまう。急がなくちゃ!私たちは一通り見たあとタクシーを止め、戦争証跡博物館へ向かった。
 戦争証跡博物館に着き、「ちょっと怖いね。」と言いながら中へ入って行く。とりあえず、まずは水上人形劇だ。つたない英語で上演時間や料金を尋ねる。どうも5人以上人が集まらないとやらないようだし、妙に高い値段を言われてるような気がしてならない。多分、2人で見るなら5人分払え、みたいなことを言っていたのだと思う。「どうしようかぁ。」とぶらぶらし始めると、前から見たことのある人が「あれ?」という顔をしながら歩いてくる。ホアマンだ。私たちは「あ〜!」と、こんなところで知り合い(という程でもないけれど)に会えた嬉しさから声をあげる。ホアマンに水上人形劇を見たいんだということを話すと、受付の人に話しをしてくれた。でも、やっぱり人が足りないから見れないということを伝えられる。「ダメかぁ・・・。」とあきらめかけた瞬間、入口に大きな観光バスが止まり、10人位の日本人が降りてきて、水上人形劇を見ると言う。ホアマンは嬉しそうに「お客さん、良かったね。見れますよ。」と受付の人に値段を聞き、私たちに2ドル払うように言う。そこでホアマンと別れ、中へ入って行った。
 中はこじんまりとしていて、階段状にイスが並べられていて、一番下に小さなプールのような池のような、とにかく水の舞台があった。私とチイは一番前に座り開演を待つ。劇はかわいらしい音楽とともに始まった。言葉はさっぱり分からないが、見ていれば内容は分かる。動きが妙にかわいくて、何だか笑ってしまう。うまいもんだなぁ。最後に、幕の裏で人形を操っていた人たちが前へ出てくる。もちろん、下半身は水に浸っている。にこやかに手を振る彼らに、思わず私も満面の笑顔でぶんぶん手を振り返してしまった。水上人形劇はとてもかわいくて、見終わった後、とても楽しい気分になった。だけど、「水の中でやる必要があるのかな?」と、チイと笑い合った。
 外に出て、今日はもうこれ以上回れないと分かったので、ゆっくり展示物を見ることにした。そこには予想をはるかに上回る悲惨な戦争の証があった。壁一面に展示されている戦争の悲惨さを伝える写真は、直視できないようなものばかりだった。小学生の頃、「裸足のゲン」を読んでショックを受けたが、それ以上の衝撃だった。それは漫画ではなく、現実を捉えた写真である。作り物ではないのだ。これが人間のすることなのか?死体を前に笑い、人間に苦痛を与え笑っている、この生き物は本当に人間なのか?そして、枯葉剤の影響で奇形児として生まれ死んでいった赤ちゃんたちが、小さなビンの中でホルマリン漬けになって置かれている。そして今もなお、苦しんでいる人々が沢山いる。この博物館にある物は、見るのがつらいものばかりだった。だけど、目をそらしてはいけない物ばかりだと感じたので、1つ1つを目に焼き付けるように見て回った。

戦争の様子を収めた写真たち。壁一面にこういった写真が展示されている。
 私が生まれた時、すでにベトナム戦争は終わっていた。だけど横田基地近くに住む私は、子供の頃、地面に大きな影を作りながら頭上を飛んでいく迷彩模様の飛行機に怯えたものである。嘘だか本当だか分からないが、それはベトナム戦争に関係のある飛行機だと教えられた。そのため私の中で、ベトナム戦争は他のどの戦争よりも私に関係のある戦争だという意識があった。そして、ここベトナムで、その本当の悲惨さを思い知らされてしまった。博物館でだけではない。町を歩いていても思い知らされてしまうのだ。私たちは外に出た後もしばらくは口を聞く事ができず、とぼとぼとホテルへ向かって歩き出した。
 少ししてから「何か暗くなっちゃったね。いけない、いけない。」と気持ちを切り替えようと努力する。だけど、やっぱり沈んだ気持ちを払拭することができない。そのうえ、道に迷い始めたようだ。交差点にぶつかる度、2人で地図を広げ行くべき方向を考える。とりあえず、ベンタイン市場へ行きたい。すれ違う人やたまたま側に居合わせた人に尋ねるが、みんな違った方向を教えてくれる。もう、何が何だかさっぱり分からなくなってきた。だんだん嫌気が差し始めた私を、チイがリードしてくれる。「いけない、いけない。」と気持ちを落ち着かせる。そして、何となく見覚えがあるような交差点に来たとき、目と鼻の先にベンタイン市場があることが分かり、一気に元気を取り戻す。私たちはベンタイン市場の中を横切ってレロイ通りを歩いて行く。

信号待ちをしているバイクの群れ。
 元気を取り戻した私たちは、ショッピングを楽しみながらホテルへ向かって歩いて行く。だいたいどのガイドブックにも載っている「ZAKKA Saigon」や「S×S」は紹介されているだけあって、本当にかわいい物を売っている。安くて(とは言ってもいい値段だ。)本当にかわいい洋服や小物に夢中になりつつホテルへ戻る。昨日オーダーしたチャイナドレスはフロントに預けられていた。私たちは荷物を置き、夕飯を食べるため再び外へと出て行った。が、ついつい、お店の中へと吸い込まれていく。色々なお店をはしごしつつ、20:00頃、ようやくホテル近くの「タンナム」というベトナム料理のレストランへ入って行った。お昼を抜いていた私たち、あまりの空腹と色々な料理を食べたいという欲求から、9ドルのコースを頼んだ。料理が出てくるまでに異様に時間がかかり、お腹が空き過ぎて死ぬかと思ったくらいだった。だけど、料理は本当においしく、しかも、ものすごいボリュームで、これまた死ぬかと思った・・・。
 
見てください、この笑顔♪
手にしているのは、まず最初に出て来た春巻きの盛り合わせ(?)。
サトウキビがついていて、何だかよく分からず、ガリガリかじってみました。
 部屋に戻った私たちは順番にお風呂に入り、半分眠りながら今日1日の出来事をノートにまとめ、それからすぐ、死んだように眠りについた。明日はメコン川クルーズだ!


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